優しい嘘

使われた場を知る人間にとって色々と物議を醸し出す言葉である。
が、それすらつけぬ人もいる。


自分にとって必要なものは誰かにとって必要ないかもしれない、自分にとって価値のないものは誰かにとって掛け替えのなにものかもしれない。
現実もネットの世界もそれは変わらない。


自分にとってもう必要のないものを手に入れて喜んでいる人がいた。
同じような値段でもっと質のいいものが手に入ると知っていても、喜んでいる人にそれを告げるのは酷だ。
なので、そのものの価値よりも望んだものを手に入れられたことへ祝いの言葉を向ける。もの知らぬ子供なら兎も角、社会人として自然なことだろう。


秋頃、PSOを始めたばかりのフレがいた。
それなりにレアなアイテムが市場に流れている中、最も手に入りやすいレアがあった。
そういったことなど知らず、初めてレアを手に入れたとフレは私に嬉しそうに伝えてきたことがある。



「これって強い?」



そう聞かれ、一瞬言葉に窮した。
総合的に見れば決して強くはない。むしろ弱い武器だった。
それを初めて手に入れた時に知人にぶつけられた暴言を思い出したが、それをそのまま口にするほど愚かではないし、そんな口にすることも憚られてしまうことを伝えは出来ない。


結果、私はそのアイテムの利点を上げて茶を濁した。
強くしやすいこと、長く使えること、汎用性のあること。
そう伝えると、そのフレは頑張って強くしようと意気込みを見せた。

ただそれだけ。
そう伝えるだけでも後進は上を目指す意欲を持つし、私より先に行く人間はそれすらも出来ないほど余裕がない訳ではないだろう。

知識を得たフレが何を思ったのかは分からない。
頑張って手にしたレアは強くなくとも愛着があるだろう。それを一瞬で無に帰すことをする恨まれ役は運営だけで十分だろう。



チムメンの離脱を経て、そんな昔のことを思い出した仕事中。